卵・乳製品不使用、米粉使用など、近年増えつつあるのが、健康への意識を高めたパン。
さらに、「ヴィーガンパン」というキーワードも浮上してきました。

動物性の食品や動物由来の食品を食べないという考え方、および、そのような主義をもつ人のことを指す「ヴィーガン」という言葉。
信条としてのみならず、ダイエットのため、体に負担のない食事を心がける人のために、肉や魚、卵や乳製品も含めた動物性の食品を含まない100%ヴィーガンなパンが徐々に増えているのです。

今回は、「Vegan / 進化するヴィーガンのパン」をテーマに、「世田谷パン祭り」へ参加するベーカリーの中から「MORETHAN BAKERY」さんを池田さんが訪ねました。

日曜日限定で店内の商品がすべてヴィーガンとなる〈SUNDAY VEGAN〉を行っている「MORETHAN BAKERY」の神林慎吾シェフ。
取り組みはじめてパンへの意識が変わったという。

「いままでは『バターを入れればおいしくなる』で終わっていました。
パンの具材といったらソーセージやベーコンが代表的ですが、それらは単体でもおいしいもの。
ナッツやフルーツのおいしさをとことん追求し、パンと組み合わせることによって新たなおいしさが生まれてくるんです」

バターや牛乳の代わりにココナッツオイルやソイバターなどを使用し、クロワッサンやシナモンロールやメロンパンなど、乳製品を使わなくては作れないようなパンまで作りあげる。
だが、神林シェフの挑戦はそれにとどまらない。
単に植物性の材料に置き換えたことに納得せず、「新たなおいしさ」を作り出そうとしているのだ。

「繊細な味をどうやって引き出すか?
植物性のものは、動物性に比べて強い味がそんなにありません。
たとえ味があったとしても、旨味やコクがあるかはまた別。
小さな印象のものを集めて、どうやってコクを出していくかが鍵」

だからこそ、食材への意識をいままで以上に高めなくては対峙できない。

「逆に、究極のヴィーガンってバゲット(小麦と酵母と塩と水だけから作られるシンプルなパン)なんじゃないか。
小麦の味をどうやって活かすかという原点をもっともっとやらないといけないと思うんです」

植物性のものを”我慢して”食べるのではなく、神林さんが作りたいのは、動物性と同じかそれ以上の幸福感で満たされる食べ物だ。

「ヴィーガンのパンには、罪悪感がないし、SDGsにもつながる。
考え方を変えれば、幸せになれるし、おいしくできるんです」

伝統的なパンの中にもヴィーガンパンはある。
たとえば、ユダヤの食べ物だったベーグル。
動物を食べることを律するユダヤ教に合わせ、ベーグルに入れられる副材料は糖類のみ、油脂や卵は使われない。
世田谷パン祭りにもベーグル専門店〈東京べーぐる べーぐり〉が登場する。
並んでいるのは和スイーツとドッキングさせたような”べーぐる”。
生地に抹茶やきなこを練り込んだり、フィリングとしてあんこや黒豆を用いたり。
そういえば和食もヴィーガンだ。
和の素材を使ったベーグルは、クリームチーズなどに頼らずとも、ヴィーガンパンとして成立している。

こってりとした動物性の食材が使われないからこそ、生地そのものの味が問われる。
東京べーぐる べーぐりでメインに使用されるのは北海道産「キタノカオリ」。
小麦自体にミルキーな甘さがある。
だから、動物性素材を使わずして、華やかな甘さが口の中に広がる。
そうした植物性の素材が起こす ”奇跡” にヴィーガンパンは気付かせてくれるのだ。


なお、11/27(土)13:00から、「MORETHAN BAKERY」のマネージャー・山口友希さんと日本ヴィーガン協会理事長の室谷真由美さんによる世田谷パン大学のトークイベント「いま話題のパン屋 MORETHAN BAKERY 山口さんに聞く!日曜日限定「SUNDAY VEGAN」への取り組みとヴィーガンパンのこれから(パンのお土産付)」が行われます。
山口友希さんは、神林さんとタッグを組んでお野菜のサンドイッチを作り上げる「サンドイッチディレクター」です。ぜひご参加ください。

詳細・お申し込み https://sbf2021-sundayvegan.peatix.com

池田浩明 「パンラボ」主宰
ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰。日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)。