パンの未来って?

世田谷パン祭り2022では「パンの未来」について考えたり、話したりする機会でもあります。そこで、パンと深い関わりのある4人の方、『シニフィアン シニフィエ』シェフの志賀勝栄氏、パンライターでパンラボ主宰の池田浩明氏、モデルで日本ヴィーガン協会理事長の室谷真由美氏、ブーランジュリー『ふじ森』など3つのパン店代表の藤森もも子氏に、パンの未来について質問してみました。

Q1.これまでに「未来を感じたパン」はどんなものでしたか?

志賀 師匠のパンです。24歳で師匠のパン作りに出会った時、自分はこのパンを作れるようになるのだろうか。と未来について、考えました。

池田 デュヌラルテやダンディゾンの、スティック状のパンとか、まん丸なパンとか、クロワッサンの形してないクロワッサンを見たとき未来だなーと思いました。

室谷 ヴィーガンになってから海外へ視察のためいろいろなお店を巡ったときヴィーガンクロワッサンに出会って衝撃でした!10年ほど前だったので、日本ではヴィーガンパンのという存在すらなく、夢のようでした。ヴィーガンでもここまで表現できるのかと可能性を感じた瞬間でした。

藤森 はじめてブルターニュを訪れた時、まだ中学生くらいだったかと思いますが、顔よりもうんと大きなクイニーアマンがそこら中、町のパン屋さんで売られていたとき、それが未来的なクイニーアマンでは決してないのですが(笑)、日本で父らが流行らせたクイニーアマンはとっても小さくて綺麗でお上品。でも、本場にきてみたらもっと汚くて(笑)、ガシガシと頬張るタイプ。ああ、これが本場の“ほんもの”で、古くから時代を超えて受け継がれて今、ここにあるんだなと思った瞬間でした。日本ではもちろん当時“ぽっと出”の流行りパンだったわけですが、その田舎町で見たクイニーには歴史を感じ、これからも先、きっとこの国、この町では何十年何百年先もこのままこのクイニーアマンが受け継がれていくんだなと思いました。

Q2.「パンの未来」について、期待していることや、思い描いているビジョンや世界観などあれば教えてください

志賀 スターウォーズのシーンでお皿の上に粉をおき、水を注いでまぜたらパンになるのを見て、未来だな。と感じました。

池田 みんなが幸せになることしか考えてないです。パン業界でいえば人手不足とか労働環境とか、食べるほうでいえばアレルギーとか生活習慣病とか、グローバルにいえば気候変動とか教育とか農業とかいろいろな問題がありますが、ぜんぶパンがイノベーションしていくことでよりよくしていく方法があると思います。

室谷 ヴィーガンパンが日本でも少しずつ増えてきており、未来のパンは、ほとんどがヴィーガンになるのではないかと期待しています。

藤森 本来、パンは小麦と酵母、水、塩などとてもシンプルなもので構成されています。デジタルじゃないころから、人の手によって作られてきました。工業的に生産すればコストも下げられますが、コスパを重視したパンは、やはりどこかパンに無理をさせてしまう添加物などが多く含まれがちです。パンは、人の手によって大切につくられるべきもの。労働時間の問題や原材料の高騰など、われわれベーカリー従事者にとって、いまは本当に難しい時代です。おいしいものを本当に大切につくろうとすると時代錯誤と言われてしまうのです。だから、パンはもっと高価であるべきとも考えます。日糧品として価格を安定させることは供給側の責務であることは重々理解しています。それと同時に、より安心で、おいしいものが安定的に共有できるよう、もう少しパンは高級なものにならないといけません。お客様がグランメゾンや百貨店などでワクワクしてお買い物をするようにパンも手に取ってもらえる時代がくるように、わたしたちも努力を重ねないといけないですね。

Q3.「パンの未来」がより豊かになるために、わたしたちにできることがあるとしたらどんなことでしょうか

志賀 食の安全についても同時に考えることだと思います。

池田 パンを食べることです。特に国産小麦やオーガニックなどいい素材から作られるパンを食べ、それらの生産者に利益が生まれ、持続可能な日本の未来へとつながります。

室谷 アレルギーのお子様なども安心して食べられるパンづくりができたらいいなと思います。

藤森 グルテンフリーに米粉、プラントベース…いろいろな新しいパンが生まれています。小麦は悪!なんていう言い分がたまに市民権を得たりする時代です。小麦も正解だし他もすべて正解です。これらが共存して、消費者がその日その時の体調にあわせて選ぶパンをいろいろとカスタマイズする時代がくるといいなと思っています。昔ながらのパンがわたしも本来大好きですが、そればかり食べていると少しカラダが重くなってきたりもしますから。だから、排除ではなく、選択肢を与えてあげることですね。

Q4.次世代に残したいパンはどんなパンですか?その理由も教えてください

志賀 職人としてのパン作りがこの国にあり続けてほしいです。

池田 パンはレシピに書けない感覚的な部分をいっぱい持っています。発酵やグルテン形成の見極めや成形の力加減や焼き加減など。そうしたいまの日本中の優れた職人技が次世代にむけて残ってほしいと思います。

室谷 ヴィーガンパンは、まだまだこれから技術的にも素材的にも発展していく分野であり
古代小麦などももっと普及するべきだと思います。サスティナブルを考えていくと、やはり、ヴィーガンパンは必須なものでより地球に優しく、環境に配慮され、消化にも負担が少ないものこそが次世代に残していきたいパンです。

藤森 クラシックです。前述のようにいろいろな新しいパンがうまれるからこそ、クラシックの昔ながらのパン、カンパーニュやパンオルヴァンなど、田舎風の昔ながらのパンはしっかり焼き続けていきたいですね。

Q5.世田谷パン祭りの未来について、期待していることなどはありますか?これからどんなお祭りになっていくと良いでしょうか

志賀 日本でもパン食が当たり前になったけど、小麦の自給率はまだまだ低かったり、使われていない農地が増え続けていたり、問題は多い。
未来の食についても考えるきっかけになるようなお祭りになったら、いいな。と思います。

池田 オンラインやヴァーチャルにシフトしていく中で、リアルな体験はますます貴重になっていくと思います。日常では起こらない新たな出会い(新しいパン、新しい人)がリアルで起こる場でありつづけてほしい。

室谷 パン人気はこのまま続いていくものですから、より今よりも環境や未来の子どもたちのための目線で考えて作られたパンやイベントの開催も、そういった配慮を織り交ぜたものになっていくことを願っています。(ゴミ問題、プラスティック問題、お持ち帰りのビニール袋などなど)

藤森 世田谷のパンの消費量を日本一に! パンの聖地にしてください(笑)

志賀勝栄(『シニフィアン シニフィエ』シェフ)
低温長時間発酵のパイオニアと呼ばれ、熟練された技術と豊かな想像力で新しいパンの世界を繰り広げている。1955年7月19日 新潟県 松之山生まれ。哲学者を目指すも22歳でパンの世界へ。その後、(株)アートコーヒーを経て「カフェ・アルトファゴス」、「パティスリー・ペルティエ」(東京・赤坂)シェフ・ブーランジェに就任。2002年以降、「ユーハイム・ディー・マイスター丸ビル店」(東京・丸の内)や「フォートナム・アンド・メイソン」(東京・日本橋など)でシェフ・ブーランジェを兼任した後、2006年10月に「シニフィアン シニフィエ」(東京・世田谷区)をオープン。

池田浩明(パンライター、パンラボ主宰、NPO法人新麦コレクション理事長)
著書『池田浩明責任編集 僕が一生付き合っていきたいパン屋さん。 』(マガジンハウスムック Hanako特別編集) 、『パンのトリセツ』(誠文堂新光社) など。雑誌連載『Hanako』。ネット連載 朝日新聞デジタル&W『このパンがすごい!』 など。

室谷真由美(モデル / ビューティーフード協会理事長 / 日本ヴィーガン協会理事長 / 環境省アンバサダー / 専門学校講師等)
ヴィーガンのお店を開拓し、3450店舗以上食べ歩きSNSにて発信。モデル・ビューティーフード研究家として、体の中からキレイになれる食を追求、独自の「ビューティーフード」メソッドを提唱し食の大切さを伝えている。日本ヴィーガン協会を設立し、日本のヴィーガンをもっとわかりやすくをスローガンに普及活動、ヴィーガン認証を運営。さらに、2012年にはビューティーフード協会を設立し、ヴィーガンやグルテンフリーの資格講座を開講受講生は1000名以上となり、満足度が高いと高評価を得ている。その他、様々なイベントにてゲスト出演でのトークショー、講演会、セミナー、料理講師、美容専門学校にてビューティーフードが特別必須科目として年間授業をし、その他飲食店プロデュースやメニュー監修なども行い、ヴィーガンの専門家としてTV出演・雑誌などの取材多数。これまでの活動が評価され、2018年環境大臣より表彰される。モデル歴20年以上、CMやドラマなどの出演をしている。

藤森もも子(ブーランジュリー『ふじ森』(目黒)、『ル トーキヨーフレンチベーカリー エスプリ』(田園調布)、『FUJIMORI R&D』(用賀)の3店舗の代表)
幼いころより慣れ親しんだヨーロッパの美食学と、カラダと地球にもやさしいベーカリーの在り方をかけあわせた独自の研究を体系化する。フランスの食文化に魅了され、約40年にわたり本場のパンを研究、日本国内におけるパンとその文化を普及させた第一人者、藤森二郎氏を父にもつ。


【無料トークショー】わたしたちが考える”パンの未来”
10/29(土) 13:00-13:20 :日本ヴィーガン協会理事長・室谷真由美
10/29(土) 15:00-15:20 :ブーランジュリー『ふじ森』代表・藤森もも子
10/30(日) 13:00-13:30:パンラボ主宰・池田浩明
世田谷公園
*予約不要・無料
https://sbf2022-talkshow.peatix.com/